アメリカで就労してみたいと思う人は少なくはありません。しかし、アメリカはワーキンギグホリデープログラムには参加していません。では、就労ビザを取得すれば良いのでは?と思うかもしれませんが、海外から就労ビザのスポンサーになってまで誰かを雇いたいと思う企業が残念ながら多くないのが現状です。
なぜなら、そんな面倒なことをしなくても、現地では市民権や永住権などを保持した『いつでもすぐに働くことが可能な』人材が吐いて捨てるほどいるからです。では、アメリカでアメリカ市民との婚姻や就労ビザ取得以外の方法で、合法的に働く方法はないのでしょうか?
就労ビザ(H-1Bビザ)以外で就労可能なJ1ビザとは?
その答えは、イエスです。日本人がアメリカで合法的に就労する方法は他にもあります。そのためのビザは交流訪問者(J1)ビザと呼ばれ、国際交流、交換留学や研修目的でアメリカに入国する外国人に発行されます。J1ビザ保持者には、研究者や大学の教員、研究者などもいます。
さて、J1ビザは別名ビジネストレーニー・ビザとも呼ばれており、アメリカ国内にある企業で有給インターン生として最長で18ヵ月就労することができるのです。J1ビザは就労ビザ(H-1B)や駐在・投資ビザ(E)に比べて比較的取得しやすいと言われています。しかし、申請するにはいくつかの条件を満たしている必要があります。詳細はアメリカ大使館のホームページで確認してください。
J1ビザは自分で申請可能?
J1ビザの申請は、代理店を通して行うことが大半です。勿論、書類が揃えば個人でも申請を行うことが可能です。しかしながら、著者を含むJ1ビザでインターン生として働いていた友人・知人は全員代理店を利用していました。高額のビザ申請代行料を支払う必要がありますが、複雑な書類作成の代行だけではなく、J1ビザのインターン生を受け入れている企業を紹介してくれるなど、充実したサービスが望めるからです。
年々厳しくなるビザ取得後の条件
著者がビザ申請した2005年と比較すると、現在のJ1ビザを取り巻く事情は厳しくなっている印象を受けます。その最たる点が、J1ビザの期限が切れた時点で2年間アメリカ国外に滞在する必要があることです。これを、『2 year rule』と言います。著者の前職場ではJ1ビザ保持のビジネスインターン生が数人在籍していました。そして彼女たちのJ1ビザの期限が切れる前に企業は就労ビザ(H-1B)に申請・変更を行って引き続き雇用していました。
ところが、いつの頃からかJ1ビザのインターン生を見かけなくなりました。理由は、『2 year rule』のためでした。このルールのために、インターン生がいくらその企業に残りたくても、または企業がインターン生を雇用し続けたくても思うように行かないケースが多々発生していると考えられます。
Two Year Ruleは回避できるのか?
J1ビザからH-1Bビザへ切り替える道が絶たれてしまった今、密かに注目されているのがEビザへの切り替えです。Eビザは投資ビザとして知られていますが、実際にはH-1Bビザ終了後企業の同意のもとE1ビザに切り替えて就労し続ける人も珍しくはありません。しかし、このEビザは近年取得が段々困難になってきていると言われているビザのひとつ。
以前Eビザで就労していた著者の友人Kは、2年ごとに日本へ一時帰国し、アメリカ大使館でEビザの更新手続きを行っていました。当時は2000年代後半でしたが、E1ビザの申請・更新のために彼女と一緒の時間帯にアメリカ大使館に訪れていた他の日本人5人は、彼女を除いて全員がEビザの発給を拒否されたそうです。
また、米国内でのJ1ビザからEビザへの切り替えはさほど困難ではなかった場合でも、米国外へ出た場合にとんだ落とし穴が待っていることも。著者の友人Nは、米国内でJ1ビザからE1ビザに変更したひとりですが、家族の緊急事態で一時帰国を余儀なくされました。結果的に、彼女は永久帰国を選びましたが、その理由のひとつにアメリカ大使館でのEビザの再申請のリスクがありました。
著者も友人から聞いて大変驚いたのですが、米国内でのJ1からEビザの切り替えの許可は移民局の判断で行われたのですが、米国から出国するとEビザの効力は失効するというのです。当該者がEビザ発給に相応しいかどうか決定するのは、今度はアメリカ大使館の直轄になるというのです。アメリカ国外でのE1ビザ取得は簡単ではなく、かなりのリスクを伴うため、これが理由でアメリカへ帰ってこれなかった人もいると聞いています。
J1ビザの理想と現実
憧れのアメリカで有給インターンシップは魅力的に聞こえるかもしれません。著者も経験者だからこそ言えるのですが、有給インターンシップでのアメリカ生活はそう簡単ではなく、『なぜこんな思いをしてアメリカに?』と自問自答して悶々とする場面も多くありました。まず問題になるのが、金銭面です。いくら有給といえども支給される金額は企業にもよりますが、月に大体500ドルから1500ドルぐらい。日本人のインターン生を引き受ける企業の大多数は大都市にありますから、必然的に物価も高くなります。
たとえば、ロサンゼルスでは1000ドルでは安全な地域で個人で部屋を借りることは不可能です。そのため、著者が知っている日本人インターンの多くはルームシェアをしていました。また、アメリカでは一部の地域を除いて車移動が必須です。足がないと行動が制限されますので、車の購入は当然となります。自動車購入に加え、生活費など足りないお金は貯金を切り崩して生活する覚悟が必要です。勿論、アメリカ滞在中に国内旅行にも行きたいでしょう。そうなると、やはり渡米前の十分な資金作りが重要になります。
日本人から搾取する日本企業もある
また、J1ビザで就労すると『空しくなる』理由に、現地雇いの社員と同じ、もしくはそれ以上のことをしているのにお給料が低い点があげられます。経験を積んでいると前向きに考えたいものですが、やはり労働とそれに対する対価は正当に評価されたいという願望が出てきてしまうものです。著者も『あのアメリカ人はあんなに適当にやっているのに、なぜ私よりお給料を貰っているんだ?』と悔しい思いを多々しました。
本来なら、企業はJ1ビザ保持者を現地の社員と同等の戦力とみなすべきではありません。しかしながら、現実は企業によってはJ1ビザのビジネスインターン生をコスト削減の目的で悪用することもあります。インターン生は低賃金で悪い条件で酷使する、いわゆる使い捨て要員です。『それでもアメリカにいたいんでしょう?』とインターン生の気持ちを利用するのです。そのため、J1ビザは陰で奴隷ビザとも呼ばれています。
どんな企業に受け入れられるかは運次第?
インターン生としてどのような待遇を受けるかは企業次第。ある意味、運とも言えます。著者はかなり足元を見られて辛酸を舐めましたが、友人がインターン生として勤めた企業では、時給計算でお給料を支払っていました。また、著者の前職場はかなり良心的で、インターン生に時給計算の給与を与えていただけでなく、企業が社員に福利厚生の一部として提供いる健康保険も提供していました。インターン生だって、『人間らしく』生活を送る権利はあります。著者は同じJ1ビザで働く友人と『早く二級市民から一級市民に認められたいね』などと言いながらお互いを励ましあって辛い時期を切り抜けました。
最後に
上手く利用すれば貴重な経験ができるJ1ビザですが、短所もあるということをしっかり理解しておくのが賢明です。また、インターンシップを終えて日本へ帰国後、何がしたいのかを明確にしておくことも大切です。帰国時が20代後半から30代前半であれば、日本での再就職もそんなに難しくないかもしれません。余談ですが、ビジネスインターン生としてのJ1ビザは妙齢だと許可が下りにくいという話を耳にしたことがあります。アメリカ人との婚姻を狙っていてそのままアメリカに居座る可能性があるとアメリカ大使館の職員が判断するからだとか。現在、トランプ政権下でビザ取得全般において以前より時間を要するなど問題が多発しています。再びJ1ビザの応募条件や審査が厳しくなることも考えられます。J1ビザでビジネスインターン生としてアメリカで働くことに興味がある人は、早め早めに時間の余裕をもって行動することが得策でしょう。
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Written by: Olivia