アメリカのイメージを聞かれたら、何を思い浮かべますか?アメリカ=『自由の国』と思っている方が多いのではないでしょうか?でも、アメリカは本当に自由の国なんでしょうか?アメリカに長年住んでみて、「アメリカは自由の国なのか?」と考えさせられることが時折あります。
今回は、近年日本でも熱い論争を巻き起こしているタトゥー(入れ墨)の、アメリカでの考え方についてご紹介したいと思います。
海外でタトゥーは普通は、本当か?
最近では、日本でも若い世代を中心にファッション感覚でタトゥーが受け入れられるようになって来ました。しかし、みなさんもご存知の通り、日本では入れ墨は歴史的にも文化的にも、まだまだマイナスのイメージがあります。結果、温泉やプールに入れないなどの制約が。
タトゥー賛成派(擁護派)のなかには、「時代遅れだ!」「タトゥーと入れ墨は別物だ!」といった意見とともに、必ずといっていいほど、「海外では、普通に受け入れられている!」と、欧米諸国を引き合いに出して、いかに日本が遅れているかを述べる人が。しかし、本当に、欧米諸国、特にアメリカでは、タトゥーは普通に社会に受け入れられていると思いますか?答えは、ノーです。
就職でタトゥーは不利になる
ある研究では、2010年の時点で18から29歳のアメリカ人の約38%がタトゥーをしていることが分かっています(※1)。また、イギリスに関していえば、2012年の調査で5人に1人がタトゥーをしているとか(※2)こんなに多いなら、さぞ世の中に受け入れられているに違いないと思いませんか?
しかし、実際のところ、就職に関してはそうではないことが明らかになっています。イギリスのガーディアン誌の記事では、企業は、『タトゥーありとタトゥーなしのふたりの同じ能力を持った求職者では、タトゥーのない求職者を選ぶ』ケースが多いと紹介。
職場での声
著者の前職場でも、他部署のあるマネージャーが『保守的だと言われようと、見える場所にタトゥーのある人は雇わない』と言っていました。見える場所とは、顔や首、半袖を来た時に見える腕の部分を指します。理由は、『客商売だから』。前職場には、耳の後ろとうなじの下にタトゥーを入れている女性がいました。
髪を下してタトゥーが見えないようにして面接に臨んだ、と彼女から聞きました。また、腕にスリーブのようなタトゥーを入れていたある男性社員は、入社後すぐに上司から注意を受けたのか、常に長袖を着て来るようになりました。たとえ、真夏でも。タトゥーが会社のドレス・コードに引っかかったのです。
個人と企業の言い分
人がタトゥーを入れる理由はさまざまです。家族や友人など故人を偲んで入れる人、個人的信条で入れる人、反社会的な思いがあって入れる人、親友とお揃いの何かを共有したくて入れる人、酔っ払った勢いで入れる人…(そういえば、コメディー映画『Hangover 2』でそんなエピソードがありましたね)。
しかし、企業はそんな個人の心情や思い入れは知ったことではありません。企業が一番に考えるのは、会社の利益です。タトゥーが企業に不利益をもたらす可能性があると判断する場合は、タトゥーをした求職者を雇わないまでの話。もちろん、公に不採用の理由を『タトゥー』とは言いません。ここでいう不利益とは、保守的な客からのクレームであったり、企業のイメージや信頼性です。
アメリカには保守的な人が案外多い
バイブルベルトと呼ばれるアメリカ中西部から東南部は、敬虔なクリスチャンやキリスト教原理主義者が多い地域です。特徴として、非常に保守的な人が多いことがあげられます。保守的なアメリカ人の中には、タトゥーを嫌厭する人も。婚前交渉も禁じられていて、それを厳守する信者もいるぐらいですから、タトゥーなんて以ての外といったところでしょう。
また、敬虔なユダヤ教信者(や、厳密に言えば、カトリック信者)もタトゥーは禁物です。旧約聖書のレビ記19章28節には、タトゥーについての表記があります。『あなた方は死者のため、自分のからだに傷をつけてはならない。また自分の身に入れ墨をしてはならない。わたしは主である。』
ホワイトカラーとタトゥー
アメリカのエリートの中にもタトゥーをしている人は確かにいます。でも、やはり少数派だと思われます。著者の友人のアメリカ人Bはいわゆるエリートビジネスマンですが、タトゥーがあります。左足のくるぶしの下には、薄いインクでサメの小さいタトゥーが。彼がビーチサンダルになるまで気付きませんでした。
靴下を履いていると分からない場所です。彼が水泳部だったことが関係しているのかと思いきや、入れた理由はかなりパーソナルらしいことも分かりました。また、別のアメリカ人男性の友人Jは、若いころロックスターとして大成することを夢みていましたが、彼にはタトゥーがありません。
理由は、『将来、自分に不利益になるかもしれないものを身体に彫るのはリスクがあると思った』から。ロッカー=タトゥーのイメージですから意外でした。ちなみに彼は、現在大学で教鞭を執っています。
最後に
確かに、アメリカは日本と比べると、タトゥーに対する風当たりはマシかも知れません。しかし、一部の偏った情報に惑わされて、『アメリカは何でもあり』と判断するのは、やはり危険です。なかには、ファッションや飲酒など、日本の方が自由なこともあるのです。
アメリカでも未だにタトゥーは普通とは言い難く、保守的な人も沢山います。保守的な人たちは、なにも祖父母や父母の世代だけに限ったことではないのです。そして、いわゆるホワイトカラーと呼ばれる職業にほど、保守的な考えや偏見が根強く残っているのも事実です。
そのため、タトゥーの有無で就職の選択肢が狭まる可能性も否定出来ません。その点では、アメリカでも日本でもタトゥーに対する考え方は、さほど大差がないのかも知れません。また、『若気の至り』でタトゥーを入れた人が後に後悔して、除去手術を受ける件数は年々増えているとか。
アメリカはある意味、『自由の国』ですが、すべて自己責任の国。自由には責任が付きまとうことも忘れずに。「海外の常識」のような話はすべて鵜呑みにせず、日本に入って来ているのは情報のごく一部に過ぎないと思うようにした方が賢明です。