痛みに耐えるのは損なだけ?痛みが苦手なアメリカ人たち

アメリカで生活していると、痛みに関する考え方が日本とかなり異なると感じることがよくあります。どちらが正しいとか好ましいという意見はさておき、著者の体験なども織り交ぜながらアメリカの鎮痛剤・麻酔事情についてお伝えします。

先手必勝?雲行きが怪しくなったら、すぐに服用

軽い頭痛がある場合、あなたならどうしますか?著者は、早めに就寝します。本当に薬を飲む必要がある場合を除いては、無闇な薬の服用を避けています。なんとなく、強い薬は身体に良くない気がするのです。ところが、著者の旦那は私が頭痛を訴えたらすぐに、「薬を飲め!」と言います。旦那本人も身体に不調がみられたら、速攻薬を服用。そのたびに、「薬が好きだな~」と思わずにはいられません。しかし、『痛くなったらすぐ薬を服用』という考えは、アメリカでは至極普通のようです。

痛みを我慢する意味が分からない

一部のロハス路線の人たちを除き、大半のアメリカ人にとっては、痛みを敢えて我慢する意味が理解できません。単純に、なんのために?それでなにか良いことでもある?という考えです。良くいえば、大変合理的です。する必要のない無駄(薬を服用せず痛みに耐える)は避けて当然。悪くいえば、痛みに対する耐性が低いのです。

お産も痛くないのがいいに決まっている?!

大半の欧米諸国がそうであるように、アメリカでも無痛分娩が主流です。2011年の統計では、少なく見積もっても60%に当たる女性が無痛分娩を選んでいることが分かっています(※1)。著者が昨年、出産のために入院したときのこと。看護師に無痛分娩の希望を確認された際に、希望しない妊婦さんがいるのか尋ねてみました。すると、自然派の人や間に合わなかった人を除いては、大半が無痛分娩するとの回答が。日本ではまだまだ無痛分娩は少数派で、痛みに耐えられないのは母親失格とまで医者にいわれた友人がいることについては、「ナンセンス」と一途両断。不必要な痛みに耐えずにお産を楽しむべきだといわれました。思わず、アメリカで出産することになって良かったとつぶやく著者。それに対し、「日本からの駐在妻たちも、みんなそう言ってたわよ。」と、豪快に笑う看護師なのでした。

痛みが消えた!ありがたや!!

無痛分娩のために使用されるのは、エピデュラル(epidural)という硬膜外麻酔が一般的です。妊婦の中には痛みを極度に恐れて、陣痛が弱い段階でエピデュラルを打つ人もいるのだとか。ちなみに著者は、陣痛が自分の中で『10段階中5』レベルになるまでエピデュラルを我慢しました。日付が変わる少し前に看護師に、麻酔のドクターの時間の都合で、今エピデュラルを打たなければ朝の7時まで打てないと伝えられました。今打つのと、朝まで待つのと、何か違いはあるのか(たとえば、胎児に影響があるとか…)を尋ねると、まったく違いがないとのこと。こうしてエピデュラルを打った著者。その後、今までの痛みは嘘のように消え、普通に食事をしたり旦那と談笑したりテレビを観たりして過ごしました。そのときに強く思ったこと。「エピデュラルを開発した人、ありがとう!神様や!エピデュラル、最高!」

痛みはないに限るけど、強い薬はやはり怖い

アメリカで生活していて驚くのは、強い鎮痛剤が割と簡単に医者に処方されることです。名がよく知られたものでは、バイカディンやオキシコドン。まるで恐竜のような名前のついた強い鎮痛剤ですが、副作用に要注意です。これらの鎮痛剤には依存性があります。鎮痛剤による過剰摂取(overdose)で鬼籍に入ってしまった有名人では、マイケル・ジャクソンやプリンスなどがよく知られています。プリンスの死因になった鎮痛剤には、モルフィネに含まれているのと同じ成分が入っているそうです(※2)。これを聞くと、どんなに強い鎮痛剤か分かりますね?ヘロインやコカインといった麻薬でなくても、強い鎮痛剤による依存症は珍しくありません。

海外に住む日本人が気を付けたいこと

海外の薬は強いだけでなく、そのサイズにも驚くことも。ときには、老人や子供でなくても、喉につっかえるような気がして飲むのを躊躇するレベルの大きさの薬まであります。それゆえに、薬が効き過ぎることも。薬が効き過ぎるとかえって気分が悪くなったり、震えが来たりすることも。日本人は欧米人より身体が小柄な人が多いことが関係しているのでしょうか?海外で薬を服用する場合は、医師や薬剤師に薬の内容や副作用を確認することをお勧めします。そしてやはり、強い鎮痛剤はなるべく常用しないことです。

また、麻酔に関しても注意が必要です。麻酔の分量は体重を基準に決定されているものの、アメリカの麻酔は非常によく効くように感じます。お酒が飲めるかどうかに関係しているのか分かりませんが、ある麻酔のドクターは、「アジア人は麻酔がよく効く傾向がある」といっていました。そんな著者も、麻酔がよく効き過ぎるひとりです。以前、全身麻酔で日帰り手術を受けたときのこと。著者より後にリカバリールームに運ばれた患者が次々と目覚めて帰って行く中、なかなか目覚めない著者を見て旦那が心配したそうです。それ以来、麻酔の必要があれば『若干少なめで』お願いしています。

おわりに

アメリカの『なるべく痛みに耐えない文化』は、ときには合理的であり、ときには危険を伴います。それは、まさしく諸刃の剣です。しかし、無痛分娩は女性にとってメリットが大きいと思います。日本で無痛分娩対応の病院が増えれば、出産に恐怖がある女性や一度目の出産体験で二人目を躊躇している女性にとっては朗報といえるでしょう。一方、強力な鎮痛剤が容易に入手可能なことについては、リスクを考慮すると手放しでは喜べません。痛みがないことに越したことはありません。しかし、鎮痛剤はあくまでも一時的に痛みを緩和する役目はあるだけで、痛みの原因を治しているわけではないのを忘れてはいけません。結局のところ、『自分の身を守るのは自分だけ』ということを念頭に置いて、賢い選択をする必要があるようです。

参照URL:
(※1)Most Women Receive Epidural or Spinal Anesthesia for Labor Painhttp://www.vbac.com/2011/04/cdc-reports-most-women-receive-epidural-or-spinal-anesthesia-for-labor-pain/

(※2)Prince’s Cause of Death: Opioid Overdosehttp://www.rollingstone.com/music/news/princes-cause-of-death-opioid-overdose-20160602

photo by : https://www.pexels.com/
written by : Olivia

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